繋がりの集合住宅

※この作品は、平成26年度 第61回 日本大学全国高等学校・建築設計競技会 に出展し、佳作を受賞したものです。


外観パース 外観パース

設計主旨

同系の外観が連続する住宅街。
その統一された景観は、整理整頓された本棚のような心地良さを思わせる。その一方で、住宅をそれ単体として着眼すると、
特筆する点のないごく一般的な住宅に見られる外観が多く存在する。
個性の潰れた、面白みに欠ける住宅になってしまうのはどうしても否めない。
私はこの同系の外観が連続する住宅街の長所を生かし、短所をなくして改善することに着眼してこれを提案した。

外観パース 外観パース

施主のKさんは小説家だ。奥さんは専業主婦で、小学三年生の女の子と一年生の男の子を抱える四人家族である。
新婚時代に購入した家は四人で住むには狭く、新築すべきか否か、悩んでいた。しかしKさん自身、決して広くはない自室が大量の本で埋め尽くされていくことに少なからず不満を抱き、子供達もそれぞれ主張が強くなりはじめた。
それに伴って増える洋服・洗濯物・食べ物の整理や保管に、奥さんはラクさ・利便性を求める。こういった各々の欲求や不満の打開を考えた結果、Kさんは新築を決心した。
私はこれらを踏まえつつ、どの家族にも想定されるであろう問題、『加齢による家族間の団らん・関わり合いの減少』を改善できるような住宅を設計した。
現段階で新築されたのはKさん邸のみだが、将来的にはその周りの家も新築し、集合住宅のような形の家々となることを想定している。
周囲の景観を壊さないように外観は似せ、隣のコンクリート壁と接合、全体が一体化・共生するという新しい形での集合住宅に、個性と面白みを与えられるようにしたい。

平面図 一階平面図 1:100
平面図 地階平面図

一つの家族は一つの空間に。

内観 内観

この集合住宅は、中央の地階部分が全体の中心となっている。
そこにはリビング・ダイニング・キッチンのほかに『勉強』『読書』『仕事』の3スペースが存在する。
入浴・排便・就寝以外のことを極力一つの空間で行ってもらう為だ。家族全員が一つの空間にいれば家族間の関わり合いはもちろん
一つの空間で快適な温度の空間を共有でき、四人が心地よく居られる。すなわち省エネに繋がる。

階段の無い二階建て

断面図 断面図 1:100

この住宅は二階建てだが、階段が存在しない。もちろんスロープもない。
平坦な廊下を歩いているうちに一階から二階へと移動してしまうのだ。これには、地階の床に秘密がある。
一階の床から『キッチン・ダイニング』『勉強スペース』『リビング・読書スペース』『仕事スペース』の各空間に小さい高低差をつけ、
徐々に地階を作り、下げているからだ。
更に、一つの大きな空間に段差があることによって壁のない固有空間を生み出す目的もある。

南北に伸びる敷地

断面図 断面図 1:100
内観 内観

個々の敷地は南北に長いため、採光に難を要する。この打開に、私は地階を設けた。これは南面の大きさが増えるだけでは無く、
年中変わらない地下の気温の利用と冬の低い太陽、すなわち貴重な熱源を有効的に取り入れる狙いがある。
同時に夏の暑い太陽は最高のみ取り入れられ、直射日光による熱を軽減できる。

読書スペース

内観 内観

Kさんの蔵書は読書スペースに置くことにより、Kさん自身だけでなく奥さんや子供達も閲覧できる。
仕事スペースとも接続しているため、仕事中でもラクに手に取れ、読みやすい。

共有スペース

外観 外観

共有スペースには何も設けず、住人たちがのびのび過ごせるように、自分たちで自由に築き上げられるように柔軟性を上げた。
地面レベルを下げているので人目を気にすることもない。住人らはこの空間を通してより深い交友関係を築くことができるだろう。